Charade again

 どこまでも高く、青い秋の空・・・・・・どこまでも陳腐な表現だが、清々しいことこの上ない。
しかし、その下で鳴り響くのはハイグリップなアスファルトの上でタイヤを消しゴムのように削り、悲鳴のようなエキゾースト・ノートを撒き散らすマシンの叫び・・・・
「ずっとね、好きだったの。シビックとかミラージュもいいけど、一番好きなのがこれだったし。」
赤いシャレード・デ・トマソから降り立った彼女はフルフェイスのメットを外して汗を拭い、満面の笑みを浮かべた。
「確かにスペックじゃオハナシにならないクルマだけどさ、でもいいじゃん?自分の好きなクルマで走るのって?」
うんうん、とうなずく俺の前で長い髪をかき上げた彼女はエンジンフードを開け、激しい走行直後のエンジンの熱気を浴びてさらに笑みを深める・・・

「このクルマで思いっきり走ってみたかったのよ。」

したたる汗で妙に色気を増した彼女の横顔をじっと見詰めながら、俺はタバコに火を点ける。
彼女のタイムは決して速くない。
しかしそれでも真紅のシャレードは・・・走りではなく、その存在そのものが、光っていた・・・・

それが彼女の赤いシャレードのラスト・ランとなった事を知ったのは、しばらく後の事だった・・・


一度、シトロエンに乗り換えた彼女に出会った。やはり赤いシトロエン。
長い髪もバッサリと切って。

「ちょっとこーゆーのも乗りたくなってさ。」

と笑う彼女が少し寂しげに見えたのは気のせいだったか?

数ヶ月後。
俺は、行きつけのショップでコーヒーを飲みながら夕焼けの中、通りを行き交うクルマを眺めていた。夕闇が迫る中ライトを付け始めるクルマが目立ち始めると、 ライトを点けた赤いクルマを見ながら回想にふけり・・

そうやって通りをぼんやりと眺めていた俺が、ショップの駐車場に滑り込んできたクルマに気がつかなかったのも無理は無い。

「ひ・さ・し・ぶ・り!・・・どう?」

・・・・・・!

突然だった。そう、突然に。
その「黒い」シャレード・デ・トマソから降り立った彼女は・・・そう、髪を再び伸ばし始めていた彼女は、ショップの入口から 声をかけると俺の隣に腰掛け、またアノ日と同じ満面の笑みを浮かべた。
「赤も探したんだけど黒しかなくてさあ。でも、好きな車だし・・これでまた走れるんだし・・・・ネ?」
ニッコリ微笑む彼女を横目に、俺はタバコに火を点けた・・・・・・・・あのシトロエンの前での寂しそうな笑顔は、シャレード からの浮気ゆえか、それとも・・・・などと考えながら。
「また、走ろうね。」

紫煙を一息。俺は火を点けたばかりのタバコをもみ消し、ショップを出ると自分のストーリアのシートに身をうずめ、キーを捻った。
いつのまにかすっかり暗くなった道を、いつもの峠に向かう・・・後ろからは当たり前のように黒いシャレード・デ・トマソがついてくる。

・・・・・・今夜は長い夜になりそうだ。




(この物語はフィクションです) Thanks by じぇっち with G201Sシャレード・デ・トマソ

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