「ある冬の深夜、白い息を吐きながらシートに身をうずめる。
チョークを目一杯引き、キーを「ON」の位置に。
(ジー…カチッ)
燃料ポンプの音を確かめてアクセルを軽く2、3度あおり、キーをさらにひねる。
(キュキュキュキュ………)
長く、鈍く響くスターターモーターの音がエンジンに呼びかける.。
(ボッ…ボッ!)
…凍りついた空気とチョークを引いて濃い目になった燃料の混合気がキャブレターから送りこまれ、燃焼する感覚。
(ボーッ・ボ・ボ・ボ・ボウッ!)
現代的な電子制御式のキメ細かいエンジン・マネージメントを持たないコイツのエンジン、EB20は凍える大気の中でのラフな操作を容易には受け付けない。右足に神経を集中し、アクセルに微妙な力を加える…なだめるように、いたわるように回転を上げていく…そして。
(ヴァァーンッ!)
寝起きの悪いエンジンが目覚めた。慎重さを残しながらもアクセルをさらにあおると、満足してタバコに火をつける。
走る前の一時、タバコ数口分の暖気運転の間、もう少しエンジンとの会話を続けなければいけないから…」


 これは昔の名車のエンジン始動シーンではありません(笑)
私が以前所有していたL70ミラのキャブターボ車は冬の始動に非常に気を使うクルマで、オーナー同様寒いと寝起きが悪い(爆)しかも熱いとすぐへばる(オーバーヒート)で、これが1990年式、たった11年前のクルマなんだからビックリしますが、私個人としては「旧車の味わいが残るクルマ」と思って毎回エンジン始動の儀式を楽しんでいました。
 このダイハツL70VミラTR−XXについて簡単に述べると、1985年に登場した元祖ハイパワーターボ軽自動車。
当時の軽ターボが40馬力程度だったのに対し、550ccのEB20型直列3気筒6バルブSOHCインタークーラーターボで一気に最高出力50馬力を発揮。これに対抗してスズキが3気筒12バルブDOHCインタークーラーターボのアルトワークスを繰り出して64馬力を発揮し、これが業界自主規制値となって今の軽自動車64馬力に至っているわけですが、この軽ターボのパワーウオーズに火をつけたのがミラTR−XXでした。
 その後スズキ・三菱に負けじとダイハツもミラをEFI化して58馬力、64馬力とパワーアップしていくわけですが・・私もこの白いL70ミラとの出会いでダイハツ魂に目覚め、ストーリアX4で走っているわけですが、その意味では今の私の原点とも呼べるクルマですね。もともと軽いクルマを、さらにあれこれ不要なものを外して軽量化して走りを楽しんでいましたが、最後はボディもマフラーもサビで穴だらけになって修理を断念し、今は某所ではぎとれるもの全てをいずれまた乗るであろうL70のスペアパーツとしてはぎとられたまま朽ち果てています…
あ、でも競技車のストーリアにはコイツのシフトノブをつけているんです。私の左手に包まれて、コイツの魂と思い出はまだまだ一緒に走り続けているんです(^^ゞ